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復興取材レポート

【宮城発!元気と食の最新情報】雄勝から水産業の6次産業化を掲げる海遊の挑戦

世界三大漁場として知られる三陸の海。その中でも石巻市の雄勝湾は養殖に適した豊かな漁場として知られています。雄勝湾には、周辺の豊かな山々の養分が湧き水として海へと注がれ、ミネラルをたっぷり含んだ海水が海底から沸き上がり、魚介が栄養豊かに育ちます。

株式会社「海遊」(以下、海遊)は、雄勝町水浜を拠点に操業。水産業の6次産業化をスローガンに掲げ、牡蠣、ホヤ、ムール貝などの養殖だけにとどまらず、自社での加工製造、流通、販売業務のほか飲食店の経営や地域資源を生かした観光業など、第二次産業、第三次産業の領域にまで踏み込んだ取組を行っています。

「漁師としての常識から考えると、他の漁師から見たら自分は相当な変わり者だよ(笑)」と、穏やかな笑顔でお話してくれたのは代表取締役社長を務める伊藤浩光さん(以下、伊藤社長)です。

伊藤社長が、雄勝に戻って家業である養殖業を継いだのは2004年、43歳の時でした。当時の養殖の主力商品はホヤでしたが、いざ始めてみると、その収益性の低さに驚いたと言います。それならばと、持ち前の行動力で独自に販売ルートを開拓し、いち早く韓国への輸出も開始します。

「この仕事を継ぐ前に、運送業の経営もしていたからこそ、流通のコストも常に頭の中に入っていた。それよりも、仕事をしているうちに、生産者から消費者への商品の流れ方に強い違和感を覚えるようになって。生産者の顔が見えないまま、消費者に商品が届くのは正しい事なのか?従来のシステムのままでは、消費者からの信頼を得られず、この先は生き残れないのではないか、とずっと考えていたんだ」。

伊藤社長は、前例のない水産業の6次産業化を見据え、2010年9月には加工場を新設します。しかし、翌年には津波により全てが流失。伊藤社長は家も船も養殖場も加工場も失ってしまいました。

それでも伊藤社長は、水産業の6次産業化を諦めませんでした。漁業をすぐに再開できる状況ではなかったので、まずは救援物資の運搬へと奔走しました。一段落すると、ボランティアや行政の助けを借りながら牡蠣の養殖を再開し、震災の年(2011年)の冬には「海遊」を設立します。歩みを止める事なく2014年には、仙台市国分町に三陸漁師のオイスターバー「Ostra de ole (オストラ・デ・オーレ)」をオープン。2016年には1日に牡蠣2万個の処理が可能な現在の加工場を新設します。

「Ostra de ole (オストラ・デ・オーレ)では、雄勝で朝に獲ったホヤやムール貝を、その日の夕方にはもう店舗でお客さんに提供しているよ。自社の物流便を走らせているから、自分のお店以外にも、仙台の飲食店や大手スーパーに、鮮度の良い状態で卸せるのが我々の強味かな。2013年には、韓国へのホヤの輸出禁止措置。2016年には、貝毒で牡蠣が出荷できなくなったり、次から次へと大変なことも起きたけど(笑)。自分が6次産業化で大事にしていることは、事業の多角化と高度化を進めて流通、販売までを行うことで、食品衛生、リスク管理まで責任を持って、生産者の顔がお客様に見える様にして、食品の安心安全を伝えて地域資源を有効活用していくこと。それが水産業と地域の活性化にもつながり、魚食文化の普及にもなるから!」と伊藤社長。

6次産業化で最も大切なことは、『食の安心安全』だと、伊藤社長は強調します。「海遊」で水揚げされた牡蠣はすぐに、滅菌海水(雑菌や不純物が極めて少ない海水)へ22時間以上入れて浄化を行い鮮度を保つほか、宮城県で定められている検査に加えて、微生物学的検査を専門とする(株)微生物研究所へと検査を依頼し、リアルタイムPCR プローブ法を用いた定期的なノロウイルス検査と食品検査を自主的に実施するなど、自社での“世界最高水準の検査体制の確立”を目指しています。

「ノロウイルス検査、食品検査の検査結果は自社のHPで情報公開をしています。牡蠣の国内市場のトップシェアは広島県産なんだけど、雄勝を含めて宮城の牡蠣は広島県のものには品質も安全性も負けていないと思う。牡蠣という食材はどうしてもノロウイルスの印象が強くて、ホテルのレストランなどでは全国的にも取り扱われる量が少ない食材になっちゃう。だからこそ、検査結果や衛生管理、輸送体制まで徹底的に安全対策をしていくことで、雄勝産の牡蠣の良さを、国内だけではなく、世界に広めていきたい!と思っているんだよね」。

今年の冬、伊藤社長は牡蠣の安全性を伝えるセミナーを東京の築地で開きました。また、都内での展示商談会にも積極的に参加して販路拡大のために商談を重ねました。働くのは、ある種の使命感に突き動かされているからだと伊藤社長。それと同時に夢があるとも言います。

「世界中に雄勝方式の牡蠣の養殖を広めたい!という夢があって。ドバイ、ベトナムにも指導に行ってきたし。雄勝では牡蠣を中層はえ縄で養殖していて。海面下2メートル程度の水深に桁網を張り、ここに垂下する方式で、海表面の動揺が直接垂下連に影響するのを防ぎ、牡蠣の脱落を防止しています。イカダ式養殖と比べても、成長、収穫量が良好で、台風などの災害にも強く、年間を通じて安定した供給が可能になるのね。水深40メートルの雄勝湾は、水温が低く塩分濃度も一定で、全国的にも珍しい夏場でも美味しく生食で牡蠣が食べられる恵まれた環境を持っているのが特徴だね。2022年に世界47カ国が加盟している『世界牡蠣学会』が仙台で開かれる予定だから、私も震災と牡蠣についての研究発表を行います。宮城には様々な名物があるけど、宮城に来たらオイスター!仙台をオイスターシティ発祥の地にしたいよね(笑)」。

現在、新型コロナウイルスが猛威を振るっています。「海遊」も事業へのダメージが少なくないと言います。

「震災後、何もなかったところから、やっと黒字になったと思ったらコロナ。売上は半減したし。だからこそ、今振り返ると、6次化をやってきて良かったなーと。養殖だけだったら、この状況に対応できずに何ともならなかったけど、従業員を抱えて、6次化をしてきた事で、売上げのリスク分散が出来ているので。取引先は全国に300店舗。オリジナルの加工品もあるし、自前の飲食店もある。反対にこのピンチをどうやってチャンスに変えていくのか?この状況が収束するのを待つばかりではだめで、より一層、走り続けなければいけないなと。」

株式会社 海遊

https://www.kai-you.in/

 

執筆者PROFILE
一般社団法人IKI ZEN 佐藤大樹