みやぎ復興情報ポータルサイト
宮城県
復興取材レポート

【宮城発!元気と食の最新情報】2011年5月12日 気仙沼市立松岩中学校 『Port of Notes』

2011年5月12日。私は雑誌『kappo仙台闊歩』の編集長(当時)の川元茂さんと一緒に気仙沼に向けて車を走らせていました。この頃の私は、被災地の風景を写真におさめ、情報を求めて歩きまわり、ひたすら記録をとり続ける日々を過ごしていました。

被災地からの帰り道で、高速道路から仙台の夜景が目に飛び込む度に、“いま私達にできる事とは何なのか?”と、心の中で自問自答を繰り返していた様な気がします。

気仙沼に向かう3日前、私は震災前から交流のあった東京のミュージシャン/DJである井上薫さんから1本の電話を頂いていました。

「明日から、僕達の大切な仲間達が気仙沼に行きます。慰問で避難所や学校を訪れるので、なにか彼等に協力できる事があれば、サポートしてあげてほしい。」

その音楽仲間とは、気仙沼出身のシンガーソングライター畠山美由紀さんと、熊本出身のギタリスト/小島大介さんによるユニット『Port of Notes(ポートオブノーツ)』でした。

写真提供:bud music

電話を頂いた後「自分がサポートできる事は何か?」を考えました。

できる事があるとすると、この日の模様を記事として記録に残してもらう事ではないかと思いました。この事を川元さんに相談すると、二つ返事で快諾してくれました。

カメラマンは、気仙沼出身の小野寺真希さんが撮影を担当してくれる事になりました。この時期、出版社や印刷会社は、石巻市の日本製紙石巻工場が被災した為に未曾有の紙不足という事態に陥っていました。

その様な状況下で紙を全国から探しまわり、川元さんたちは『kappo仙台闊歩』と『せんだいタウン情報S-style 』を4月下旬に発行したばかりでした。2冊の雑誌には、“復興へ50人の言葉”、“みんなで作ろう街の元気”というタイトルが掲げられました。それは、地元宮城の出版社としての役割を果たしたい、被災した町の声や、復興に向かって動き出している様子を読者に届けたいという編集者としての矜持があったからなのではないかと思います。

私達が取材先として向かったのは、気仙沼市立松岩中学校の体育館でした。訪れた時は、ちょうどリハーサル中で、温もりを持ったギターの音色が心地よく漂っていました。

撮影の打ち合わせをしながら、美由紀さんと大介さんにお話しをお伺いすると、この日は午前中に避難所となっていた気仙沼市総合体育館でライブをしてきた事を教えてくれました。

いよいよ開演の時刻が近づき、体育館には当時中学2年生だった生徒が集まってきました。美由紀さんのご友人と先生が2人を紹介してからライブは始まり、美由紀さんは冒頭で気仙沼の方言を交えて自己紹介をしました。穏やかな口調のお国訛りが、どこか緊張していた会場の雰囲気を少しずつ柔らかく解きほぐしていきました。

写真提供:(株)プレスアート/小野寺真希(fog)

この日のライブで『Port of Notes(ポートオブノーツ)』が、演奏した楽曲は誰もが知っている、「ふるさと」や「浜辺の歌」、「上を向いて歩こう」など、日本の童謡とポップスのカバーでした。

美由紀さんの愛しむような歌声と、大介さんのギターの音色は、これらの楽曲の世界観をより一層、強く、優しく、美しく、浮かび上がらせ、言霊が込められた音色となり、会場を深く包み込んでいきます。

曲目が進むに連れ、中学生たちも、静かに熱を帯びた表情で演奏に耳を傾けていっている様子が伺えました。ライブでは美由紀さんのご友人である津波被災にあったピアノ教室の先生を交えてのセッションもあり、ライブの最後になって自分達のオリジナル曲を披露しました。カメラマンの小野寺さんは、ライブ中、休む事なくファインダー越しに、会場の雰囲気をカメラに収めていきました。

写真提供:(株)プレスアート/小野寺真希(fog)

震災発生から2か月後という状況で、満足のいく音響機材は会場にはありませんでした。大介さんはギターアンプを東京から持込み、美由紀さんは会議用のマイクスピーカー拡声器で歌を届けていました。

どんな環境でもベストを尽くして音楽を奏でたPort of Notes (ポート・オブ・ノーツ)は本当の意味でのプロのミュージシャンでした。ふと小野寺さんを見ると、演奏終了後に、保護者の友人の方と静かに抱き合いながら泣いていました。

そして、すぐに表情を切り替え、ライブを終えた2人を被写体に素敵なポートレートを撮影してくれました。彼女もまた、紛れもないプロカメラマンでした。

写真提供:(株)プレスアート/小野寺真希(fog)

 

あの春の日に、体育館に集まっていた中学生の皆さんが、もう成人しているかと思うと、時の流れの早さを感じられずにはいられません。あの時に、多くの漁船が打ち上げられていた気仙沼市内湾地区には、内湾のにぎわいを創出する観光商業施設「迎(ムカエル)」が11月15日にグランドオープンしました。

観光桟橋を見渡せるデッキから青い海を見渡した時、また『Port of Notes(ポートオブノーツ)』の2人がライブしている姿を、復興に向けて歩んでいる現在の気仙沼で見てみたいなと心から思いました。

 

Port of Notes (ポート・オブ・ノーツ)
畠山美由紀 (Vocal)と小島大介 (Guitar)によるアコースティックディオ。’96年結成。翌年、EP『Port of Notes』でデビュー。現在までに4枚のオリジナル・アルバムを発表。’01年、POLA化粧品のTV CMソングとして「With This Affection」、’02年「Sailing To Your Love」、’03年「Those My Old Days」が使用される。’01年12月、松任谷由実30周年カバー・アルバム『Queen’s Fellows』に参加、翌年1月、日本武道館で行われたYuming Tribute Concert “Queen’s Fellows”に出演。’04年に発売された、3rdアルバム『Evening Glow』では、松任谷由実の参加も話題となった。’08年デビュー10周年を記念して、自身の選曲に新曲を加えたベスト盤『Blue Arpeggio~Own Best Selection~“青いアルペジオの歌”』をリリース。 ’09年全曲NY録音、Jesse Harrisプロデュースによるオリジナル・アルバム『Luminous Halo~燦然と輝く光彩~』 をリリース。’17年12月、久しぶりとなる新曲「トラヴェシア」を発表、’18年7月新作EP『水蜜桃』をリリース。
http://portofnotes.com/

 

執筆者PROFILE
一般社団法人IKI ZEN 佐藤大樹