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宮城県
復興取材レポート

大好きな場所の未来のために。別所哲也さんと新しい松島へ。

松華堂菓子店で店主の千葉伸一さんと。

歴史ある松島を価値が生まれる地に。

「ベストポジションじゃないですか、ここ」。
俳優の別所哲也さんは、カフェの窓際の席に座り、感嘆の声を上げました。
窓の外には五大堂。奥には小島が浮かぶ海が見えます。日本三景、松島。

この地も、大人の身長ほどの津波が海辺の店々を襲いました。
直後は泥やがれきに覆われましたが、現在は多くの商店が再開を果たし、松島らしい和風の建物が並んでいます。

この日最初に訪れた松華堂菓子店は、そんな街のなかでもひときわ目を引くシックな佇まい。1階はみやげもの店、2階は松島湾を望む喫茶室を併設した菓子店です。

「松島の地元の暮らしや文化を感じてほしいと思ってつくったお店です」と店主の千葉伸一さん。「昔、松島は霊場と呼ばれる神秘的な場所でした。今でも早朝に霧の中をランニングしていると、そういう雰囲気を感じることがあります。積み重ねた歴史が作り出す美しさを感じてほしいし、子どもに伝えたいと思うんです」。

五大堂をのぞむ松華堂菓子店
「松島はポテンシャルがあって、仙台という大都市の近くにある贅沢な田舎、東京でいう鎌倉みたいな存在になれるんじゃないかな、と思っています」と千葉さん。

淡々と、けれども熱く語る千葉さんの話を聞き、別所さんは深くうなずきます。「そういうこだわりを感じるお店ですね。古き良き伝統も、現代的な価値観も大切にしているというか。なんとなく松島の日常を感じます」。

そうですね、と千葉さん。
「ゆっくり過ごして、何度も来てもらって、最終的に住みたいなと思ってもらいたいです。ここ数年、復興バブルで、華やかだけど根っこがないクリスマスツリーみたいなことがあちこちで起きました。一時はそれでもいいですが、ぼくはもっと長い視点が必要だと思います。時間はかかっても、地域に根付き、価値が生まれることがしたいです」。

別所さんも、共感するところが多い様子。「これからの時代、そういう価値あるライフスタイルを具現化していくのが大事ですよね。いいですね。こういう道を歩んでいる松島のために、外にいる人間は何ができるのか、考えちゃいます」。

松華堂菓子店から見える海辺も、ほかの地域と同様に、現在も防潮堤の工事が行われています。
少し違うのは、景観にマッチした石材で作られているという点。

景観に配慮した防潮堤 日本三景の美しい景色を妨げないよう、町と協力して建設が進められています。

「コンクリートの表面を秋保石という宮城の石で覆っています」という宮城県塩釜港湾事務所の伊藤技術次長の説明に「なるほど、手触りがいい」と別所さん。
「観光客も地元の人も、これならうれしいですね」。

笑顔で楽しむ新しい担い手たち。

次に訪れたのは「松島とまと」を栽培するマキシファーム。
食べごたえがあって、酸味と甘みのバランスがいい「昔ながらのとまと」を、最新式の大規模農場で生産。近県ではめずらしいオランダ式の栽培方法を採用し、年間600トンを出荷しています。

「この方法を知ったとき、トマトでも大規模に栽培できるのか、と驚きました。チャレンジでしたが、やってみたいなと。震災では、温室のガラスが200枚割れました。片付けて、土を戻すところからのスタートでしたが、やっとの思いで復旧し、震災の年の6月から農場を再開しました。うちが最初に頑張るから、ほかの農家さんも頑張って、という気持ちでしたね」と話すマキシファームの内海さん。

「珍しいやり方だから研究に来る農家さんもいるんです。みんなで協力して、新しいことをやっていけたらいいですね」と広大な畑を案内しながら笑顔で話してくれます。

マキシファームの内海さんと別所さん 別所さんは「内海さんは自分から楽しくやろうという気持ちがみなぎってますね」と笑います。

別所さんも、社会科見学みたいで楽しいと少年のような眼差し。
「農家というイメージを覆されますね。ダイナミックな発想で大胆にアクションしようとしているのが頼もしいです」と話します。

松島とまと 「うまい!料理に使ってもよさそう」と試食した別所さん。「もっと食べたくなりますね」。

松島めぐりを終え、別所さんは「未来のカレンダーが見えたように思います」と話してくれました。

「千葉さんも内海さんも、自分が担い手だと自覚して、具体的な希望を描いて一歩一歩進んでいると感じました。冷静であたたかな眼差しで松島の行く末を考えているなと。震災から時間がたち、しかも遠い東京にいると、宮城のことを考える機会が減ってしまいますが、心のチューニングをあわせて、じっくり目を凝らせば、きっと共通の未来が見えてくると思うんです。被災地としてではなく、日常を取り戻した普段着の場所として、『松島っていいな』と皆が思えるきっかけを作っていけたらいいなと思います」。
(文責・沼田佐和子)

別所 哲也
1965年静岡県出身。俳優、タレント、ラジオパーソナリティなどと幅広く活動。カタールフレンド基金親善大使として、東北の復興を支援。代表を務める国際短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」でも、災害や防災をテーマにした取り組みを行っている。