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宮城県
復興取材レポート

仙台市在住の作家・熊谷達也さんと自転車でめぐる、海が見えるまち・女川。

大六天駐車場で。「そらうみサイクリング」の庄子和行さんと。

三陸の美しさを再認識するサイクリングツアー

熊谷達也さんは、東日本大震災後、週末ごとに沿岸部に通った時期がありました。

「なんでそんなことをしているのか、自分でも分からなかった。でも、人知を超えた惨状を目の当たりにして、なぜか、どうしても見なきゃと思って」。

直後の女川町にも訪れました。跡形もなくなった市街地を見て、女川は本当に再生できるのか、と感じたと言います。
「どういうかたちでまちが戻れるのか、正直想像できませんでした。その時と比べると、よくここまでと感じます。完璧にモダンになりましたね」。

レンガ敷きの女川駅前広場やシーパルピア女川を歩きながら、熊谷さんは話します。
「ここは、海から昇る初日の出が正面に見える設計なんでしょう。考えられてますね」。

熊谷さんのこの日の目的は、女川を自転車で走ること。
「女川町や石巻市などをめぐるサイクリングツアー〝そらうみサイクリング"という取り組みが気になっているんです。先日はこのツアーを利用して牡鹿半島を走りました」。

実は、熊谷さんは熱狂的なサイクリスト。
「自分の力で汗を流して三陸の自然を走るのは、やっぱりいいですね。自転車だからこそ見える景色があります」。

“そらうみサイクリング”の副代表で女川町出身の庄子和行さんも、その言葉にうなずきます。
「震災をきっかけに、私たちは女川や石巻の良さを再認識しました。三陸はロードバイクに乗る人にとって、すごく理想的な場所なんです。海が見えたかと思うと山になって、信号もほとんどない。そういう場所ってなかなかないんですよ。漁業体験などを組み合わせたりして、三陸を好きになって何度も来たくなるツアーを目指したい」と庄子さん。

熊谷さんは持参した自転車にまたがり、コバルトラインの大六天駐車場を目指します。

「女川駅って石巻線の終点でしょう。終点で電車を降りて、自転車を組み立てて、その先は自分の足で進む、ってロマンがありますよね」と熊谷さん。

急な坂道も、車で追いかける取材チームが置いて行かれそうなスピードで駆け上ります。
たどり着いた大六天駐車場から見下ろす女川湾は、7年前、あの津波があったとは思えないほどに澄んだ青。

「地元の人たちは、あれだけひどい目にあっているのに、ちっとも海を恨んでいないんです。海とともに生きている。シーパルピア女川からも海が見えるでしょう。海が見えるまちを選択するというのは、大変なことだったと思いますが、それでも、労力をかけた分だけ意味があることだと思います」。

走り、泊まり、食べて。女川の復興の目撃者に

山を下りた一行は、女川町観光協会が2018年3月に新設した「たびの情報館ぷらっと」でひと休み。

休憩スペースのほか震災時の写真や映像も展示している「たびの情報館ぷらっと」。

ここには、レンタサイクルも設置されています。
「観光客はもちろんですが、町民にも利用してもらえたら。女川の良さを再認識してほしい」と事務局長の遠藤琢磨さん。

レンタサイクルはロードバイクやクロスバイクも設置

女川駅前は「ツール・ド・東北」の際に、エイドステーションとして多くのサイクリストを迎えます。熊谷さんも利用したことがあるそう。
「朝5時から準備して、サンマのすり身汁をお配りするんですよ」と遠藤さん。
舞台裏の話に花が咲きました。

トレーラーハウスを活用した「ホテル・エルファロ」にも足を運びました。
震災直後にオープンした施設ですが、2017年8月に女川駅のそばに移転オープンしました。

トレーラーハウスを利用した「エルファロ」の客室は、ロフト付きやツインなどがある。

女将の佐々木里子さんは「自転車に乗る人も来ますよ。ポーチまで自転車を入れられるので、便利みたい」と話します。
「最近は被災地を見に来る方も減ってしまいましたが、私はよく、復興の目撃者になってください、と話すんです。今さら、と思わず、毎年変わる復興の景色を見に来てほしいと思っています」。

「震災後、私は女川の人が好きなんだなぁと気が付きました」と話す「エルファロ」女将の佐々木里子さん。

「今日は、まちが立ち上がってきていることを肌で感じました」と熊谷さん。

「沿岸部は、津波で全部持っていかれてしまった。だから、ここは、新しい絵が描けるキャンバスのような場所なんだと思います。震災を契機に、皆、自分のまちはどうあるべきなのか、いろいろ考えたでしょう。そのとき想い描いた絵が、まだ完成形にはなりませんが、出来上がりつつある。女川は、いいかたちで再生していくんだ、と安心できた一日でした」。

これからはもっと、沿岸部を自転車で走ってみたいな、と熊谷さんは笑顔を見せてくれました。
(文責・沼田佐和子)


熊谷 達也
1958年、宮城県生まれ、仙台市在住。気仙沼市などで数学の教員を勤めたのち作家に。2004年『邂逅の森』で、第17回山本周五郎賞と第131回直木賞をダブル受賞した。東日本大震災後は、架空の街「仙河海市」を舞台に、震災をテーマにした作品を8作発表している。