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宮城県
復興取材レポート

「特別な人が被災したんじゃない」。 俳優の小池亮介さんと名取市の過去と今を聞く。

ゆりあげ周遊船の高谷直樹さんと。

心に重く響く「母世代」の語り。

東日本大震災から7年8カ月。
当時は繰り返し見た大津波の映像も、最近では、ほとんど目にする機会がなくなりました。

この日は、名取市閖上(ゆりあげ)地区を大津波が襲う映像からスタート。
伝承施設「閖上の記憶」では、語り部による語り継ぎや遺品などの展示を通して、当時の様子を伝えています。

この地を襲った津波は最大9メートル。
900人以上の方が亡くなりました。

家を破壊しながら迫る真っ黒い波。
おもちゃのように浮き上がる車。
逃げる人。
「こっちゃ来い!」と叫ぶ撮影者。

閖上の記憶
ゆりあげ港朝市のそばにある施設。震災以前の閖上地区と津波の映像が見られます。

「はじめて見る映像です。こういうことが、現実にここであったんだ…」。
俳優の小池亮介さんは、映像を見終わった後、低い声でそう呟きました。
震災が起きた当時、小池さんは中学3年生。「3年生を送る会」で後輩の合唱を聞いている最中に揺れを感じたそうです。

「閖上中学校は卒業式の日だったんです」と語ってくれたのは、語り部の丹野祐子さん。
津波で中学1年生の息子さんと義理の両親を亡くしました。

閖上の記憶
亡くなった中学生が学校で使っていた品々を展示。ひとつひとつ説明してくれる丹野さん。

「私は当時、津波から逃げるという意識がほとんどなかった。だから津波がくるまで、避難した公民館の庭で『夕飯どうすればいいのかな』とおしゃべりしていました。私は建物に上がって助かりましたが、離れたところで友達とサッカーをしていた息子は流されてしまった。小池さんのような若い世代の人には、教訓を引き継いでほしい。いつでも、最初に逃げるトップバッターでいてください」。

小池さんにとって、丹野さんはお母さんの世代。
「心に響くものがあります。ぼくはあの日から、一人暮らしを始めたり、芝居に悩んだり、ウルトラマンになったり、いろいろなことを経験した。でも同じ年代の子が、あの日そんな事になっていたなんて。今、ぼくが普通に生きていることが特別なことなんだと思いました」。

小池さんの言葉に丹野さんはうなずきます。
「復興が進んで、私も今年新しい家に引っ越しました。前に進むことは良いことです。でも私は、私たち家族に起こったことを伝え続けたいと思います」。

周遊船、酒蔵。復興に向けて進む人。

震災の脅威を学んだ後は、今の名取市を巡ります。
向かった先は「ゆりあげ周遊船」。復興するまちを見てもらおうと2018年8月に始まりました。
河口から外湾までを約30分で巡ります。

「海から見える景色はまた違いますね。復興途中の様子がよく分かります」と小池さん。

ゆりあげ周遊船
「風が気持ちいい」と小池さん。

船を出してくれた高谷直樹さんが勤めるのは、七ヶ浜町の会社。
エリアは違えど同じ被災地として手助けしたいと、周遊船の運営に名乗りをあげました。
「たくさんの人が来てくれましたが、まだやれることはありそう。来年はタブレットで震災前の景色を見てもらえるようにする予定なんです」。
「それはいい!」と小池さん。「夏に来たら違った雰囲気なんだろうな。また乗りたいですね」。

次に訪れたのは「佐々木酒造店」。
明治4年から続いた酒蔵を失い、今は仮設の蔵で酒造りを続け、地名から名前をとった『閖』という日本酒を売り出しています。

佐々木酒造店
神戸の酒蔵などから寄贈された機器を今も使用している。

「『閖』という字は珍しい漢字で、震災前は誰も読めなかった。でもまちを押し流す津波の映像と一緒に、閖上という地名が全国に知られるようになりました。この酒には、『なにくそ、自分たちはここから立ち上がるんだ』という想いを込めています」と蔵元の佐々木洋さん。

佐々木酒造店は2019年10月に閖上に蔵を再建する予定です。
「新しい蔵に移ったら『閖』は造りません。今年の造りが最後。次からは新しい酒を始めていきます」。
視線はもう、未来を向いています。

佐々木酒造店
「酒蔵でお酒をのむのは初めて。種類によって味が違いますね!」と笑顔の小池さん。

「なんというか…。特別な人が被災したわけじゃ、ないんですよね」。
視察を終えて、小池さんはかみしめるようにそう話しました。

「実はぼく、ここに来るまで被災した人と話をするのは難しいと思っていました。体験していない自分では、共感できないような気がして。でも、実際話してみると、いろんな人がそれぞれの想いで震災に向き合っている。だったら、被災していないぼくらは、ぼくらなりに考えればいいんじゃないかな。無理に同じ気持ちを持とうとしなくても、いろいろな人のいろいろな想いが重なっていくことが、復興にとって大切なんじゃないかと思いました。忘れないこと、それから、行動すること。今日ここで感じたことを、想い続けることも、大切な役割なんじゃないかな。必ずまた来たい。来て、またその時感じたことを伝えたいと思います」。
(文責・沼田佐和子)


小池 亮介
1995年、静岡県浜松市生まれ。美輪明宏演出『毛皮のマリー』、劇団☆新感線『髑髏城の七人Season月−下弦の月−』などの出演を経て、今年7月から『ウルトラマンR/B(ルーブ)』の主人公・湊イサミとして出演中。来春には劇場版公開も決定。